workflow or bpm

BPMとワークフローは何が違うのでしょうか? BPMとワークフローはどこが同じなのでしょうか? 言葉の定義や成り立ちを振り返りつつ「BPMとワークフローの関係」を考察します。 筆者:法人ソフト歴20年。修士(情報学)。経産省認定情報セキュリティスペシャリスト。経産省認定プロジェクトマネージャ。

No-Code ワークフロー
ビジネスプロセス管理(BPM)は普遍的な行動規範

1. BPMの定義

2つの言葉を比較するには、それぞれの「定義」が必要です。まずはBPMの定義について考察したいと思います。 “Business Process Management” (BPM) という言葉は、様々な組織や団体によって様々に定義されています。

1-1. Gartner社によるBPM定義

IT業界において絶大な影響力をもつ米ガートナー社による定義は、押さえておく必要があります。〔Gartner, Inc: ITアドバイザリ会社, Wikipedia En Ja

【筆者意訳】 ビジネスプロセス管理(BPM)は、『普遍的な行動規範』 (Discipline) のひとつです。すなわち、様々な手段を用いてビジネスプロセスを「発見」「モデル化」「分析」「測定」「改善」し、そして「最適化」します。そもそも「ビジネスプロセス」は、ビジネス戦略に沿う成果をあげるため、人・システム・情報・モノの挙動を制御します。しかし「手順が明確で何度でも繰り返すことができるプロセス」だけでなく、「変化し続けるプロセス」も存在していることには注意が必要です。なお、この管理活動においては(必ずしも必須とは言えませんが)多くの場合、コンピュータ(Technologies)が活用されます。従ってビジネスプロセスの管理活動は、「情報通信への投資」(IT投資)や「機械制御への投資」(OT投資)を方向づけることにもなります。

ガートナー用語集 “Business Process Management (BPM)”

まず押さえておくべきこと(大切なこと)は、『ビジネスプロセス管理(BPM)』は、
 基本的には「ITツールを指す言葉」ではない
という点です。

  • 【引用元】 ガートナー用語集 “Business Process Management (BPM)”
  • 【引用原文】 Business process management (BPM) is a discipline that uses various methods to discover, model, analyze, measure, improve and optimize business processes. A business process coordinates the behavior of people, systems, information and things to produce business outcomes in support of a business strategy. Processes can be structured and repeatable, or unstructured and variable. Though not required, technologies are often used with BPM. BPM is key to align IT/OT investments to business strategy.

【筆者ぼやき】 “BPM is a discipline.” この “discipline” を翻訳するのは難しいです。本稿では敢えて『行動規範』と訳しています。辞書には「集団の規律」「組織内の統制」「キリスト教の法規」「学問分野」といった訳語もありますが、どれもシックリきません。ちなみに「BPMは学問分野である」と翻訳されているケースをよく目にします。が、その日本語訳は「シックリこない」を通り越して「誤訳だ」と感じています。原義的・哲学的〔e.g. Mフーコーの「ディシプリン」, Wikipedia En〕に言えば、「権威からの教え」といった強いニュアンスなハズです。つまり「教義」「行動指針」「行動規範」などの方が適訳だと思っています。

1-2. BPMの取り組み方

“BPM” が「行動規範」であり、部署内や全社での “取り組み” を指す言葉ということは分かりました。しかし、その “取り組み” はどのように実践されているのでしょうか?

企業における “取り組み” では多くの場合、指標やゴールが設定されます。ビジネスプロセスの管理活動においても『組織の成熟度』が参照されることが少なくありません。実践する会社によって、あるいは支援するコンサル会社によって異なりますが、基本的には「1段階から5段階」の5つのステージを参照します。(”管理対象が存在しない状態” を想定して「0段階目」が用意されている場合もあります。再掲↓)

ビジネスプロセス管理(BPM)は普遍的な行動規範

ちなみに、筆者自身は「0:混沌」「1:定義」「2:統制」「3:統治」「4:制御」「5:順応」くらいの表現が、日本語として適当だと思っています。

なお、他の管理活動(QMS・EMS・ISMS…)と異なり、「ビジネスプロセス管理」には国際標準(ISO)がありません。「ビジネスプロセス」は、そもそも『品質管理プロセス』や『環境評価プロセス』など様々なプロセスを包含する表現で、スコープが広すぎるようです。

  • ▼メモ▼ 成熟度関連の標準規格
  • QMS: Quality Management System
    • 製造物や提供サービスの品質を管理。国際標準化は1987年(ISO 9000)
    • 品質マネジメントシステム〔Wikipedia En Ja
  • EMS: Environmental Management System
    • 環境目標の達成に向けた取組を管理。国際標準化は1996年(ISO 14000)
    • 環境マネジメントシステム〔Wikipedia En Ja
  • ISMS: Information Security Management System
    • 情報資産のセキュリティを管理。国際標準化は2000年(ISO/IEC 27000)
    • 情報セキュリティマネジメントシステム〔Wikipedia En Ja
  • PMS: Personal information protection management
    • 個人情報の保護活動を管理。日本産業規格(JIS Q 15001)
    • 個人情報保護マネジメントシステム 〔Wikipedia Ja
  • ▼メモ▼ ガートナー社のBPM標準(6ステージ)
  • Gartner Research: BPM Maturity Model Identifies Six Phases for Successful BPM Adoption
    • The Six Phases
    • Phase 0: Acknowledge Operational Inefficiencies
    • Phase 1: Become Process Aware
    • Phase 2: Establish Intraprocess Automation and Control
    • Phase 3: Establish Interprocess Automation and Control
    • Phase 4: Establish Enterprise Valuation Control
    • Phase 5: Create an Agile Business Structure

1-3. BPMの歴史

ところで、『ビジネスプロセス管理活動』(BPM活動)は、いつごろから実践されるようになったのでしょうか?

IT業界やコンサル業界では、
 BPMの理論基盤は、Fテイラーの『科学的管理法』(1910年頃)を源流とする
という考え方が広く支持されています。

つまり、テイラーは “労働者管理の方法論” の中で「工具手順の標準化」や「標準的作業時間の設定」などを提唱しました。100年以上経った今日に至ってもなお『組織内のワークフローを分析し調和させるマネージメント理論』として広く知られています〔科学的管理法: Wikipedia En Ja〕。そして、その「プロセスを管理する」という考え方が、1960年代の「カイゼン活動」(品質管理の方法論)、1980年代の「CMMI」(ソフトウェア開発の方法論)、1990年代の「COBIT」(ITガバナンスの方法論)などに引き継がれている、と言われています。

ここで大切なことは、『ビジネスプロセス管理(BPM)』は、
 この10年・20年に湧いて出てきた新しい考え方ではない
という点です。

よく考えれば「プロセスを管理したい」という表現自体、極めて普通のフレーズです。長い歴史の上に存在し続けている『普遍的な行動規範』なのだと思います。そして、この『ビジネスプロセス管理(BPM)』という言葉自体は、2000年代に入って注目されるようになります。それは、Gartner 社自身が『Business Process Management Suite』(BPMS)という造語を発表したことがキッカケとなります。

【筆者ぼやき】 常々思っている事ですが、「ビジネスプロセスを管理する」という行為は、社会性が高い人類にとって “極めて自然な欲求” です。極端な話、「”ビジネスプロセス管理の歴史” なんて “人類の歴史” と同じなんでわ?」などと思ってしまいます。たとえば豊臣秀吉が全国の農耕地の測量を命じた時、プロセスの概念はあったように思います。「測量手順」「役割分担」「報告書式」くらいは定義されていた(管理されていた)ような気がします。〔知らんけど〕 〔太閤検地, Wikipedia Ja

1-4. Gartner社によるBPMS定義

では何故、あらめて『Business Process Management Suite』(BPMS)という言葉が必要だったのでしょうか?

ここでは “BPMS” について、米ガートナー社による定義を確認しておきたいと思います。

【筆者意訳】 ビジネスプロセス管理スイート(BPMS)は、BPMプロジェクトやBPM戦略を推進するためアプリケーション基盤です。すなわち、プロセス改善のライフサイクル全体をサポートします。具体的には、プロセス発見・プロセス定義・プロセス設計だけでなく、実装・監視・分析・継続的な最適化に至る全ての改善活動を支援します。一般的なソリューション(情報システム等)と異なり、モデルドリブンな手法によるビジネス担当者とIT担当者のコラボレーションでビジネスプロセスを進化させ続けることができます。
ガートナー用語集 “Business Process Management Suites (BPMSs)”

あらめて『Business Process Management Suite』(BPMS)という言葉が必要だったのは、端的に言えば「新しい技術トレンドである “モデルドリブンな手法” を広めたかったから」なのだと思います。

もっとも、この「モデルドリブンな手法」(Model-Driven Approach)という言葉は極めて奥が深い言葉です。詳細については次章以降で少しずつ解説できればと思います。

ここでは、『ビジネスプロセス管理スイート(BPMS)』は、
 「ITツールを指す言葉」である
という点だけ押さえておいてください。

  • 【引用元】 ガートナー用語集 “Business Process Management Suites (BPMSs)”
  • 【引用原文】 Business process management suites (BPMSs) are the leading application infrastructures to support BPM projects and programs. A BPMS supports the entire process improvement life cycle – from process discovery, definition and design to implementation, monitoring and analysis, and through ongoing optimization. Its model-driven approach enables business and IT professionals to work together more collaboratively throughout the life cycle than is possible with other approaches to solution delivery.

【筆者ぼやき】 “Suite” とは「一揃い」という意味です。ホテルの「スイート(ルーム)」には “色々な部屋” がそろっています。パッケージソフトの「オフィススイート」には Word や Power Point 等を “色々なソフト” がそろっていました。ちなみに “Suite” と “Sweet” (甘い)は同じ発音です。が、背広(Suit)や水着(Swimsuit)やガンダム(Mobile Suit)の “Suit(s)” は発音が違います。〔どうでもイイ〕

1-5. 様々な組織によるBPM定義

その他の組織では、ビジネスプロセス管理(BPM)をどの様に定義しているのでしょうか?

おおむね「1-1. Gartner社によるBPM定義」(←ITツールを指す言葉ではない)に近い表現となっています。

その一方で、国際標準仕様『BPMN 2.0』の用語集のように “IT ツール” を指している定義も散見されます。

【筆者意訳】 ビジネスプロセス管理: プロセス管理(プロセスの分析、定義、処理、監視、管理など)をサポートするサービスやツールです。人間やアプリケーションレベルのインタラクションのサポートを含みます。BPMツールは、手動プロセスを削減し、部署とアプリケーション間の依頼ルートを自動制御します。
Business Process Model and Notation (BPMN), Glossary informative

ここでは、『ビジネスプロセス管理(BPM)』という言葉は、
 基本的には業務管理手法を指すが、文脈によってはITツール群を指す場合もある
という点を押さえておいてください。

  • 【引用元】 OMG: Business Process Model and Notation (BPMN), Glossary informative
  • 【引用原文】 Business Process Management: The services and tools that support process management (for example, process analysis, definition, processing, monitoring and administration), including support for human and application-level interaction. BPM tools can eliminate manual processes and automate the routing of requests between departments and applications.

「ビジネスプロセス」のイメージ

2. ワークフローの定義

この章では「BPM」と比較しながら「ワークフロー」という言葉にフォーカスします。

2-1. アールスト教授によるワークフロー定義

ワークフロー研究で世界的に有名なアールスト教授は、論文『BPMその動向調査』(2003) の冒頭で次のように述べています。(特に、2000年代の「ワークフローパターン研究」や2010年代の「プロセスマイニング研究」が有名) 〔Win van der Aalst, Wikipedia En

【筆者意訳】 ビジネスプロセス管理(BPM)は、伝統的なワークフロー管理(WFM)のシステムや取り組みの延長線上にあると考えられます。
BPMその動向調査

その論文の本文においては、さらに詳しく説明しています。

【筆者意訳】 多くの人は、ビジネスプロセス管理(BPM)は1990年代のワークフローの波に続く「次のステップ」と考えています。(中略)。BPMの定義には様々なものが存在しますが、ほとんどの場合、ワークフロー管理(WFM)が明確な形で内包されています。
BPMその動向調査

この考え方は、2020年代に至ってもなお、IT業界内における考え方の基本になっている思います。つまり、
 「ワークフロー」は「BPM」の一要素である
 「ワークフロー」は「BPM」に内包されている
という認識が根付いていると思います。

なお、その10年後の論文『BPMその広範囲な動向調査』(2013)においても、同様の説明をされています。

【筆者意訳】 BPMは、ワークフロー管理(WFM:Workflow Management)の延長線上にあると考えられます。WFMは主に、ビジネスプロセスの自動化に焦点を当てていますが、BPMはより広い範囲なスコープを持っています。すなわち、プロセス自動化とプロセス分析だけでなく、進捗管理や作業体制までカバーしています。(中略)。伝統的なワークフロー管理(WFM)は、ビジネスプロセスを機械的に自動化することを目的としていました。人間の関与があること管理を支援することについては、あまり考慮されていなかったと言えます。
BPMその広範囲な動向調査
  • 【引用元】 “Business Process Management: A Survey” (2003) (cached PDF)
  • 【引用原文1】 It can be considered as an extension of classical Workflow Management (WFM) systems and approaches.
  • 【引用原文2】 Many people consider Business Process Management (BPM) to be the “next step” after the workflow wave of the nineties… There exist many definitions of BPM but in most cases it clearly includes Workflow Management (WFM).
  • 【引用元】 “Business Process Management: A Comprehensive Survey” (2013) (cached PDF)
  • 【引用原文】 BPM can be seen as an extension of Workflow Management (WFM). WFM primarily focuses on the automation of business processes, whereas BPM has a broader scope: from process automation and process analysis to operations management and the organization of work… Traditional WFM technology aimed at the automation of business processes in a rather mechanistic manner without much attention for human factors and management support.

【筆者ぼやき】 教授の論文 “Business Process Management: A Survey” では、ワークフロー研究者(グラフ理論の応用研究や形式言語の応用研究など)ならではの視点で BPM 定義が書かれています。興味深いのは、”見えないプロセス” を否定している点です。『我々のBPM定義ではオペレーション可能な作業工程(operational processes)に限る。つまり戦略プロセス明示できないプロセス除外する。プロセスが認識されている状態でなければならない点に注意して欲しい。作業工程についての情報を持ち合わせず支援などできない。』〔←うん、気持ちは分かる〕

2-2. Gartner社によるワークフロー定義

ガートナー社も、「BPMS製品の選定基準」(2009年)や「iBPMS製品の選定基準」(2011年)の中で

【筆者意訳】 BPMSには10の機能領域がありワークフロー技術は1つのコンポーネント(部品)に過ぎない

と述べています。

オフィシャルな文書ではありませんが、ブログ『ワークフローとBPMのチガイ、分かってる?』(2010年)の中で、ゼンゼン違う!と訴えたこともありました。(リサーチ部門の方)

【筆者意訳】 BPMS にはワークフローの “進化形” が搭載されています。もっと言えばワークフローは、BPMS の10技術のヒトツにすぎません

さすが調査会社だけのことはあって、とてもロジカルな主張です。そして彼らは、そのコンポーネント(部品)は『プロセス・オーケストレーション・エンジン』(Process Orchestration Engine)と呼んでいます。それまでにも『ワークフロー・エンジン』という表現があったのですが、呼称の上でも「ワークフロー」を “卒業” する必要があったのかも知れません。(CF: Workflow Reference Model)

  • ▼BPMS製品の選定基準▼ 【筆者意訳】 この調査ではBPMS製品の選定時に考慮すべき機能を列挙します。
    • プロセスを遷移させ状態を把握するエンジン機能
    • モデルドリブンな制作環境
    • 文書の参照と保存
    • ユーザ管理機能とグループ管理機能
    • 案件とリソース(人間や機械など)を紐づける機能
    • 現況モニタ機能
    • シミュレーション機能と最適化機能
    • ビジネスルール管理機能
    • システム管理機能
    • 処理コンポーネント格納機能
  • ▼iBPMS製品の選定基準▼ この調査ではiBPMS製品の選定時に考慮すべき機能を考察します。
    • プロセス・オーケストレーション・エンジン機能は案件を次の工程に移動させます
    • モデルドリブンな制作環境はプロセス設計とプロセス内工程設計を支援します
    • 各工程で必要とされる文書類が参照され保存されます
    • 人間は確認や入力を自然に行えます
    • 各案件を適切なリソース(人間や機械など)に紐づけます
    • 工程名・進捗・変化などについて現況モニタ機能による分析が可能です
    • いつでもプロセス実績を計測しあるいは予測します
    • ビジネスルール管理機能で迅速なプロセス開発を実現します
    • システム管理機能でiBPMSシステムの状況が把握できます
    • 処理コンポーネント格納機能はコンポーネントの再利用性を高めます
  • 【引用元】 Gartner Research: Selection Criteria Details for Business Process Management Suites, 2009
  • 【引用原文】 This research lists a universe of features to consider when selecting a BPMS.
    • the 10 BPMS Core Components
      • Process Execution and State Management Engine
      • Model-Driven Composition Environment
      • Document and Content Interaction
      • User and Group Interaction
      • Basic Connectivity
      • BAM and Business Event Support
      • Simulation and Optimization
      • Business Rule Management
      • Management and Administration
      • Process Component Registry/Repository
  • 【引用元】 Gartner Research: Selection Criteria Details for Intelligent Business Process Management Suites
  • 【引用原文】 This research examines the key features to consider when evaluating an iBPMS.
    • the 10 iBPMS Core Components
      • The Process Orchestration Engine Drives the Process From One Activity to Another
      • The Model-Driven Composition Environment Helps Design Processes and Their Supporting Activities
      • Content Interaction Management Supports the Content Needed to Complete Process Activities
      • Human Interaction Management Enables People to Interact Naturally With Processes
      • Connectivity Links Processes to the Resources They Control
      • Active Analytics Are Needed to Monitor Activity, Progress and Changes in Processes
      • On-Demand Analytics Are Needed to Measure and Project Process Outcomes
      • Business Rule Management Is Needed to Guide and Implement Process Agility
      • Management and Administration Features Help Monitor and Adjust the iBPMS
      • The Process Component Registry/Repository Provides Component Leverage and Reuse

【筆者ぼやき】 ガートナー社は「BPM活動を支援する製品」(BPM製品)を、より細かく区分しています。具体的には、3つの区分(「BPM プラットフォーム」⇒「BPMS」⇒「インテリジェントなBPMS」)で調査しています。乱暴に言えば、”『未来を予想する機能』を重視する場合には「インテリジェントなBPMS」を使いこなしましょう” と主張されています。〔←スケールが大きな組織では重要です。〕

2-3. ワークフロー・オートメーションという言葉

では、2020年代に入って見聞きする機会が増えた「ワークフロー・オートメーション」(Workflow Automation)とは何でしょうか? 「ワークフローの自動化」といった “直訳” も見聞きしますが、日本語として意味が通じているとは思えません。

そもそも日本においては、「ワークフロー製品」という言葉には “人間が関与するもの” の印象が強く、具体的には “申請承認フロー” や “経費精算フロー” を指す場合が多くなっていると言えます。〔いわば “Human-Centric Workflow” 〕

ワークフロー製品とは、企業の様々な業務にかかる稟議・申請から承認・決裁に至るまでの事務フローを電子化し、業務プロセスの効率化・自動化、内部統制の強化を図る等の製品の総称であります。
株式会社エイトレッド有価証券報告書

ただ、前節までの「定義の歴史」を振り返れば、なんとなく想像がつくと思いますが、「ワークフロー・オートメーション」で言う『ワークフロー』は「機械を相手にした(Integration-Centric な)ワークフロー」のニュアンスです。

すなわち、今日の “Workflow Automation” をあえて日本語に訳すならば、
 一連処理の全自動化(一連作業の全自動化)
くらいの意味に捉えるのが良い、と思います。そして、人間が関与することなく実行され、定型作業の生産性が大幅に改善されます。(e.g. IFTTT、Zapier、kissflow、Pipefy、Box Relay、WorkFusion、K2 Software、…) 〔「Workflow Automation」と「Robotic Process Automation」(RPA) の違いについては、またの機会に…。〕

ちなみに、ガートナー社の用語集に「Workflow Automation」は存在していません。ガートナー社は、むしろ “iPaaS オシ” (Integration Platform as a Service)です。なお、専門用語を逐一日本語に置き換える(ローカライズする)のは、結局回りまわって混乱を招くことになると思っています。基本的には、世界共通語のまま利用すべき(理解すべき)だと思っています。

3. モデルドリブンについて

さて、「Workflow システム」と「BPMS」の違いを決定づける『モデル・ドリブン』とは何でしょうか?

3-1. モデルとは何か?

そもそも「モデル」という言葉には、大きく「模型」と「手本」の2つの意味があります。

  • プラモデル: 模したモノ。本物ではない。
  • 分子モデル: 模したモノ。本物ではない。
  • ロール・モデル: 理想とする人。自分とは違う。
  • ファッション~: 理想とする人。自分とは違う。

業務プロセス管理(BPM)の特長である『モデル・ドリブン』は
 対象を認識するために簡略化した図など
くらいの意味で捉えるべきだと思います。つまり、「完全には描写しきれていないが特長的なポイントが規定されているもの」と言えます。

3-2. プロセスモデルとは何か?

では「プロセスを “モデル化” する」という表現は、フロー図だけを指すのでしょうか。

今日において「プロセスモデル」は、概念的に、次の3要素で規定されます。

  • プロセスモデル
    • 業務の流れ:各工程がどのような順序で接続されるか 〔フローモデリング〕
    • 業務データ:どのようなデータが受け渡しされるか 〔データモデリング〕
    • 引受ルール:だれ(個人・チームの誰か・機械など)が引き受けるか 〔リソースモデリング〕

すなわち、業務プロセスを模式化するには、業務の流れ図(フロー図)だけでなく、「住所・氏名・電話番号」といった業務データや、「鈴木さん・鈴木さんが所属する部門のリーダ」といた引き受けルールも規定する必要があります。

【筆者ぼやき】 言葉としての「フロー図」は、外にも様々な表現が使われます。プロセス図・業務の流れ図・ワークフロー図・フローダイアグラム・フローチャート・工程表・などなど。私見ながら、それらに大きな違いは無いと思っています。(さすがに、それらの「違い」を考察するのは不毛に…)。なお、具体的な表記法としては『BPMN』(Business Process Model and Notation)が国際標準化されています。

3-3. モデルドリブンとは何か?

「モデル・ドリブン」(Model-Driven)の日本語訳として「モデル駆動型」という表現をよく見聞きします。が、ピンときません。

そもそもの原因は「Drive/Driven」に対応する日本語が存在しないためです。”Drive” は原義的に「勢いづける」という意味です。テニスやサッカーで「ドライブをかける」などの表現もあります。従って、
 モデル化を最初に行うシステム開発スタイル
くらいに認識するのが良いと思います。

具体的には、前節に示したように「業務の流れ」「業務データ」「引受ルール」をモデリングします。そしてそのプロセスモデルを元に(によって)、システムが実装(自動的に構築)されます。

なお、伝統的には「モデリング」(「デザイン」とも言う)の後に、プログラマによる「インプリメント」(実装)を必要とする BPMS が主流でした。ただ、近年においては、 No-Code 開発(プログラミング不要のシステム開発/ソフトウェア開発)がトレンドになっています。今日では、「プロセスモデル」(「ワークフローアプリ」とも言う)が完成すれば即運用できる BPMS を志向する組織も少なくありません。(←”ポジショントーク”、すみません…)

【筆者ぼやき】 私見ではありますが『データドリブン経営』(データ分析を起点に判断がなされる経営)を「データ駆動型経営」とは言うべきではないと思っています。同様に『イベントドリブン』(Event-Driven/ユーザ操作を起点に処理が走り出すプログラム)や、『締切ドリブン開発』(締切が近づいてきたことをキッカケに活性化される開発スタイル)といったジョークも、そのまま “ドリブン” で良いと思っています。よく考えれば『USB Driver』は「USBドライバ」であって「USB活性ソフト」とは言いません。世界で同じ言葉を使う方が効率良いと思っています。Tsunami(津波)や Emoji(絵文字)と同じ理屈。そして “大空翼くん” の「ドライブシュート」は、”メチャメチャ活性化されたボール” なんだと思います。〔知らんけど〕

4. Workflow と BPM の違い

それぞれの製品には、それぞれの個性があります。したがって、カテゴリ「Workflow 製品」とカテゴリ「BPM 製品」の違いを述べるのは容易ではありません。以下の「違い」では、「大まかなこと」しか言えないことをご理解ください。

なお、歴史的な考察にもあったように、BPM製品(BPMS)は「人間と機械(コンピュータ)の両方をコントロールできる」ようになります。ただ、本質的な違いは「モデル化」の有無です。つまり、Workflow と BPM の違いは、「モデルが存在することによるメリット・デメリット」を考察することになります。

PDCAサイクル、BPMならでは

4-1. 業務の流れの設定における違い

BPM製品(BPMS)の場合、モデリングの中核はワークフロー図(BPMN図)になります。

確かにこれは極めて大きなメリットです。しかし同時にデメリットでもあります。すなわち、「ありとあらゆる流れを記述できる」という側面は、その “習熟コスト” に直結してしまいます。〔BPMNは「読む」のは簡単ですが「描く」のはソコソコ大変です。〕

しかしながら、カイゼン活動に終わりはありません。

  • 案件によって経路が変わる設定
  • タイムアウトで次工程に進ませる設定
  • 途中で複数工程に分流させる設定
  • 既定のデータ編集を自動化する設定
  • 子プロセスを自動的に呼び出す設定
  • 他クラウド(外部API)と自動通信させる設定
  • などなど

BPM製品(BPMS)であれば、様々な流れ(Control Pattern)と、様々な制御(API Orchestration)を実現できるようになります。

4-2. 引き受けルールの設定における違い

BPM製品(BPMS)の場合、複雑な「引き受けルール」を設定する(広い意味で「モデリングする」)ことが可能です。

  • 工程の処理担当者を1人指定する(案件到着時には割当済)
  • 工程の処理担当者を複数人を指名する(誰かが引き受ける)
  • 工程の処理担当者をロール名で指定する(複数人の場合は誰かが引き受ける)
  • 順繰りで処理担当者になるように設定する(案件到着時には割当済)
  • などなど

BPM製品(BPMS)であれば、様々な仕事の割り当て方を実現できるようになります。

4-3. 社内外との業務プロセス共有における違い

BPM製品(BPMS)の場合、全ての業務プロセスにグラフィカルな「ワークフロー図」(BPMN図)が作成されます。また、モデリング結果を「プロセスモデル」として保存することも可能です。(Questetra BPM Suite の場合 “.qar” ファイル)

プロセスオーナーは、自部署の業務プロセスについて説明しやすくなります。また、経営層や関連部署などは、現状の業務プロセスをいつでも確認できるようになります。

4-4. 流れてきた案件の処理における違い

BPM製品(BPMS)の場合、案件の「現在地」だけでなく、それまでの「経由地」をワークフロー図(BPMN図)上で確認できます。各工程の処理担当者は必要に応じ、上流工程の処理者を確認できるようになります。

4-5. 流れている案件のモニタリングにおける違い

BPM製品(BPMS)の場合、全ての処理中案件の「現在地」を、ワークフロー図(BPMN図)上で確認できます。たとえば、滞留しがちな工程をあぶりだし、「人員増員や自動化といったアクションをとる」や「業務の流れを変更する」といったカイゼンにつなげられるようになります。〔ステータス・モニタリング〕

4-6. 処理された案件についての集計における違い

BPM製品(BPMS)の場合、案件担当者ごとや案件経路ごとの実績値を集計できます。たとえば、担当者ごとの実績レポートを自動化できるようになります。〔パフォーマンス・モニタリング〕

4-7. 問題発生時の検知における違い

BPM製品(BPMS)の場合、業務データの閲覧パーミッションを細かく設定できます。案件処理者は、「同僚や関連部署への相談」や「同僚や関連部署からの助言フィードバック」を得やすくなります。

5. おわりに

BPM活動は「カイゼンし続けること」(←”継続的なカイゼン”)にこそ、意味があります。”ちょっとした事務手続き” の中にも沢山の「課題」が隠れています。

各現場のプロセスオーナーのみなさん。『見えている業務プロセス』(モデル化されている業務プロセス)くんだけでなく、『まだ見えていない業務プロセス』(まだモデル化されていない業務プロセス)ちゃんとも、ちゃんと向き合っていきましょう。そして、小さなカイゼンを少しずつ積み上げていきましょう。お互い。。。

Questetraは「フロー図・業務データ・引受ルール」の設定で開発が完了する No-Code BPM です

PS: よくある誤解

  • 『ワークフローシステムが申請業務の流れに特化したシステムであるのに対し、BPMツールは受注システム・製造システムといったより大きな業務の流れが対象
    • それは誤解です。“申請業務” をBPMツールで改善し続ける会社さんも沢山おられます。
  • 『ワークフローは申請や承認の業務を迅速かつスムーズに進めるためのツールであり、BPMは業務全体を分析し、問題点を解析、業務の組み換えなどを行って効率化を推進するツールです。』
    • BPMもワークフロー機能を内包するので、「スムーズに進めるためのツール」です。つまり “包含関係にあること” が表現できていないと思います。
  • 『ワークフローシステムが人の手によってフローが進められるのに対し、BPMツールは人の手による処理に加え、業務アプリケーションによる処理も行われます』
    • これは混乱の原因になる可能性があります。BPMツールが「人による処理」と「機械による処理」の両方に対応するについては問題ありません。ただ、前半の表現は「人間作業をコントロールするワークフロー製品」(Human-Centricな製品)が多く存在していることを前提にしています。とくにグローバル視点では、「機械作業をコントロールするワークフロー製品」(Integration-Centricな製品)の文脈が多くなるので注意が必要です。
  • 『紙ベース運用を改善したいという場合はワークフローシステムがおすすめ。BPMシステムは機能が豊富ですが少々オーバースペック…』
    • そうかも知れません。。。が、基本的には「改善し続けたいかどうか?」に依存する話だと思います。

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