ビジネスプロセスを図に描くと、業務の流れが明らかになり、業務改善の活動を実践しやすくなります。
また、ビジネスプロセスを描く取り組みは、それ自体が業務への理解を深める効果があり、組織全体を成熟させていく契機にもなり得ます。ここでは「目に見える効果」「目に見えない効果」の双方から、ビジネスプロセスを描くメリットについて解説していきます。
「暗黙知」を「形式知」に変換する
営業から開発、バックオフィスに至るまで、その企業が業務を通じて培ったノウハウは、他社との差別化をもたらします。
経験によって得たノウハウは、まず担当者個人の頭の中に蓄えられますが、これは他者から見ることができません。このように、個人の経験や勘による言語化・図式化されていない知識は「暗黙知」と呼びます。
一方、言葉や図などによって他者に伝えやすい客観的な知識は「形式知」です。個々のメンバが蓄えた暗黙知を組織で共有するためには、こうした知識を業務マニュアルなどに明文化し、形式知へと変換していく取り組みが必要となります。
BPM で業務プロセスを標準化
ビジネスプロセスを描くというのは、まさに「暗黙知を形式知に変換していく」作業です。この作業によって、それまで個人の経験や勘などに頼っていた業務のノウハウは体系的に整理されます。これは、属人性の高い業務プロセスを、標準化・マニュアル化していく作業ともいえるでしょう。
そして、ここで重要となるのが、業務を継続的に改善する BPM(ビジネスプロセス管理=Business Process Management)の考え方です。BPM では、ビジネスプロセスを描くことによる業務のモデリング(見える化)を重視しており、こうした作業を繰り返しながら業務のさらなる最適化を目指します。

暗黙知を形式知に変える4つのステップ
暗黙知を形式知に変えるフレームワークとしては、経営学者の野中郁次郎氏らが提唱するSECIモデル(セキモデル)が知られています。
SECIモデルは、下記の4つのステップによって構成されます。
- 共同化(Socializaiton)… 個人の暗黙知を共同作業などを通じてシェアする
- 表出化(Externalization)…暗黙知を形式知(マニュアルなど共有しやすい形)に変換する
- 連結化(Combination)…形式知を組み合わせて、より包括的・体系的な知識を構築する
- 内面化(Internalization)…表出化・連結化によって生まれた形式知から、新たに個人的な暗黙知を蓄える
この4つのステップを循環的に進めることにより、組織は新たな知識を学習し、成長していきます。ちなみに、ビジネスプロセスを描く手続きは「表出化」であり、視覚化されたビジネスプロセスを元におこなわれる業務改善活動は「連結化」であると言えるでしょう。
BPM で得られる直接的・間接的な ROI とは
一方、ビジネスプロセス管理による業務改善プロジェクトを ROI (投資対効果)の観点で考えると、「直接的に表れる効果」と「間接的に表れる効果」に分けることができます。
直接的な効果としては、まず業務の遂行に必要なコストの削減が挙げられます。たとえば、自動車部品の大手メーカーであるボッシュは、数千にも及ぶ供給業者のネットワークを管理するプロセスの一部を自動化し、年間およそ50万ドルを削減するという効果を得ました。
また、アメリカ・ミネソタ州に本部を置く世界最大規模の医療センター、メイヨー・クリニックでは、600人以上が在籍する人事部門においてルーティンワークの自動化を推進し、約4万時間の人的・時間的コストを削減する試みを実施しています。
一方、間接的な効果としては、顧客満足度の向上や法令遵守の徹底などが挙げられます。もしビジネスプロセスが整備されておらず、作業の品質にバラつきがあった場合、顧客からの評判を下げてしまうリスクは高まるでしょう。また、属人化された業務は、セキュリティ違反や不正の温床となる可能性もあります。
しかし、ビジネスプロセスがキチンと組織内で整理・把握・共有されていれば、仕事の流れの中で「どこに問題があるのか」を速やかに特定できます。そして解決策をスムーズに導き出すことができれば、作業の品質も向上するでしょう。また、BPM による業務プロセスの標準化は、不正や「裏マニュアル」のような不適切な業務遂行パターンを防止する役割も果たします。

個人の中に蓄積されたノウハウを組織全体に広げる
ビジネスプロセスを描くメリットは、それを実施する部門によって異なります。
たとえば営業部門であれば、セールスサイクルの短縮や提案書・請求書発行手続きの簡略化といった効果が期待できるでしょう。またマーケティングや制作に関する部門なら、一貫性のあるコンテンツの作成や成果物の品質向上といったメリットが得られます。ほかにも、経理や総務といったバックオフィス業務であれば、進捗状況の把握や精算手続きの高速化、申請・承認処理の簡素化などを実現できるはずです。
一方、属人化あるいはサイロ化された業務プロセスは、組織の全体最適を阻む障壁となる可能性があります。お互いが何をしているのかが見えない状況では、情報伝達の不足によるミスや、同じ作業を複数の人がおこなうといったムダが発生しやすくなるのは言うまでもありません。
しかし、BPM に基づく業務プロセスの「見える化」は、担当者や部門といった垣根を越えて業務の標準化を促します。ビジネスプロセスを描くことで、仕事の進め方を部門間・担当者間で共有できれば、メンバ個人が業務で培ったノウハウを組織全体に広めることも可能です。このように、各メンバが勘や経験で培った「暗黙知」を、体系化された「形式知」に昇華できれば、組織におけるナレッジ・マネジメントの成功も期待できるでしょう。
BPM が企業にもたらす3つの価値
BPM による経営管理が順調に進むと、組織には3つの視点から価値がもたらされます。
まず、1つ目は「コストの削減」です。前述のボッシュやメイヨー・クリニックの例にあるように、業務を標準化・自動化することによって、企業は費用を圧縮し、利益を増やすという効果を得ることができます。
2つ目は業務プロセスにおける「柔軟性・頑健性の獲得」です。業務改善のアプローチを継続的に実践すれば、変化に強い柔軟な組織や体制を構築できます。これはたとえば、「組織の重要なメンバーが抜けても業務の継続が可能であること」や、「社内外の環境変化によって業務プロセスを変更しても、業務の現場に混乱が生じないこと」などを意味しています。
3つ目は「経営戦略の補強」です。たとえば、新たなビジネスモデルを実装したり、新市場に進出したりといった経営戦略をおこなう際に BPM の手法を用いれば、ビジネスプロセスを最適化しながら、柔軟に仕事の進め方を対応させることができます。コスト削減や頑健性の獲得が「守り」の投資だとすると、こうした経営戦略の一環としての BPM の導入は、「攻め」の投資と言えるかもしれませんね。
BPM ツールを導入することで得られるメリット
これまでにも述べたように、「ビジネスプロセスを描くこと」は業務の効率化や改善を促します。そして、その実践を支えるのが BPM ツールと呼ばれるソフトウェアです。
BPM ツールは、ビジネスプロセスを描くことによる業務の「見える化」を容易にして、業務改善活動をサポートします。BPM ツールによって日常業務を電子化すれば、作業の無人化・自動化が促進され、企業は業務品質の向上や省力化といったメリットを得ることができるでしょう。
また、BPM ツールを使用すれば、ビジネスプロセス図を簡単に作成・共有できるため、「誰が」「何を」「どのような順序で」おこなうのかということをメンバがしっかりと把握できるようになります。これは内部統制の改善につながり、こうした組織には長期的な成長も期待できるでしょう。

コストを抑えて導入できるクラウド型ワークフロー・Questetra BPM Suite
Questetra BPM Suite は、ビジネスプロセスを描いて「見える化」するだけでなく、描いたワークフローにあわせて自動的にシステムを構築する BPM ツールです。
多くの BPM ツールは、サーバーへのセットアップなど利用するまでの準備が大変ですが、Questetra BPM Suite はクラウドサービスとして提供されているため、お申し込み後すぐに利用することが可能です。これは、BPM ツールの導入に際して発生する「人・お金・時間」などのさまざまなコストを抑制できることも意味しています。
業務を改善し、組織力を強化する第一歩として、着手しやすいプロセスから、まずは無料で始められる Questetra BPM Suiteを試してみてはいかがでしょうか。